暗黙知を共有するために

橋大学教授の野中郁次郎さんが、持論ある『形式知暗黙知』の違いについてこう語っています。

野中郁次郎さんに聞く:優秀なリーダーは会議で“場”をつくり、結論に導く - ビジネススタイル - nikkei BPnet


だから「優れた先輩や上司を見習う」とは、「手本」を通じて暗黙知を共有することに他ならない。暗黙知を共有するためには、経験を共有する以外にない。だから、例えばセミナーなどを開いてどうなるというものではありません。経験とは、言葉にするのが困難なもの、五感を総動員して感じ取るものです。これに対して、セミナーの中心となるのは言葉、すなわち形式知*2=論理だからです。

形式知暗黙知がダイナミックに連動するところに、日本企業ならではの特性・強みがある」というのが私の持論です。しかし、ことコミュニケーション力とか人間的魅力といったことは、ひとえに暗黙知に属する問題です。

*1 暗黙知:言語・文章で表現するのが難しい主観的・身体的な知
*2 形式知:言語・文章で表現できる客観的・理性的な知


この考えは有名なのでご存知の人も多いと思います。そして、ITとの関連についてこう言われています。

つまり「暗黙知の共有」と口でいうのは簡単ですが、その実現のためには膨大な時間と手間がかかるのです。

そこで多くの企業はどうしているかというと、暗黙知のレベルを下げている。そうすることで1人でも多くの社員に理解させようとするわけです。ノウハウをドキュメント化して、ITツールで共有させたりとかね。しかしそれは、真の意味での共有ではないのです。繰り返しますが暗黙知とは頭で理解するものではなく、身体で覚えるものだからです。"

確かに、ノウハウDBやマニュアル集だけでは伝えきれない『暗黙知』は多いと思います。こういったものは、直接参考になる上司や先輩の仕事ぶりを見て学び盗んでいくものだと思います。



だ、現代のオフィス環境を考えるとどうでしょうか? 周りからは見えない仕事が昔より多いと思います。 例えばメールやIMです。 勉強対象となる上司や先輩がどんなコミュニケーションをしているのかつぶさに観察できるわけではありません。 ITツールによって形式知のやり取りは簡単になった一方、暗黙知が外から見え辛くなっています。


この問題はどう改善すればいいのでしょう。この記事では動画等を使ったTV会議システム等にあるていど肯定的な意見が書かれています。

ただ、そこに行為の状況や文脈を入れ込んだり、ビジュアル的要素、特に動画や音声などが加わってくると事情は変わってきます。「見る」「聞く」は身体的な行為であり、言葉の裏にある繊細なニュアンスなども伝えられますから。その意味で、経験の共有体験を補完するものとしてビジュアル要素を使うことは積極的に考えていい。


では、テキストベースのコミュニケーションより、ビデオチャットを多用すればいいのか? それはちょっと方向性が違う気がします。肝心なのは、仕事ぶりを周囲から見えやすくすることではないでしょうか。

例えばメールやIMではなく、グループウェアとしての社内ブログやSNSで情報共有をする。電話は極力1対1でなく、マルチチャットにして他の人も内容を確認できる様にする。会議は録音してPodキャストで関係者が後から聞ける様にする。

こういった仕事ぶりをオープンにしていく取り組みが、暗黙知の共有に役立ち、ひいては企業の発展に貢献するのではないか、そんな気がしています。




リーダー論や組織論についてとてもわかりやすく書かれているので本文を是非よんでください。

野中郁次郎さんに聞く:優秀なリーダーは会議で“場”をつくり、結論に導く - ビジネススタイル - nikkei BPnet
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