Googleと「神の見えざる手」

 週末も『しあわせのくつ』読んで頂いてどうもありがとうございます。

CNETで渡辺さんがリンクの売買についてこう説明されています。PageRank評価の高いW3C(WWW関連の標準化団体)で、リンクが有料で売られているとう話です。

CNET Japan Blog - 渡辺隆広のサーチエンジン情報館:「PageRank購入」の標的となったW3Cとその結末


"まず、W3C Supporters Programやその詳細ページをご覧下さい。これはウェブで利用される技術の標準化をすすめる団体・W3Cのサポーター紹介ページですが、よく見ると何やら企業名や団体名ではなさそうなキーワードが並んでいます。例えばRSS FeedsやOnline Casino Newsなどなど。実はこれ、W3Cを支援する目的で掲載されているのではなく、SEOの外部リンク獲得目的で掲載されているのです。"
(中略)
ところでW3Cサポータープログラムにリンクとともに掲載するには、日本円にして年間11万円程度の寄付金をW3Cに支払うだけでOKです。月額換算にして約1万円です。外部リンク対策はもともと時間・金銭コストが多大に発生する作業であり、思い通りに”優良な”(この文脈では、PageRankが高い)ページからリンクを獲得することは困難であり、こうした観点から価値判断すれば PageRank 9 のページに対して1万円は決して高くはありません。

そこで多くのSEOマーケッターがW3Cに”寄付金”を支払って、SEO的に好都合なキーワードをアンカーテキストにしてリンクを掲載してもらい、その結果、色々なキーワードが並んだ、冒頭に紹介したようなページになってしまったわけです。

見方によってはこのリンクは広告と同じわけですから、PVの多いサイトならではのビジネスをしていると言えます。

しかし、何が問題かというと、Google等の検索エンジンにとってみれば、検索結果がまっとうなものであるというのが生命線ですから、そのランキングの信頼性を失わせる様な真似は困るわけです。お金によってランキング上位に入りたいならばAdwordsを使ってください、というわけです。

つまり、Google世界にとってみれば、上記の様な取引はアンダーグラウンド市場で、Adwordsこそが正当な取引市場だということです。
これがいいかわるいかというのは賛否両論あるのでさておき、検索結果のランキングとはどういう意味なのかを改めて考えてみます。


リアル社会では、売り手と買い手に自由な取引をさせておけばいずれ価格や価値が適切なところに落ち着くという『神の見えざる手』効果があると言われています。しかし、ウェブの場合は、リンクを張るのもサイトを見るのも基本的に無料でお金のやり取りがないので、サイト(情報)の価値を判断するのが難しかったのです。確かに人気のあるサイトとそうでないサイトの差はあるものの、それを判断する基準がなかったわけです。『神の見えざる手』による調整は確かに働いているものの、その調整結果が見えなかった、ということです。

そこでGoogleの出番がやってきました。
人気のあるサイトとはどういうものなのかをリンク構造分析から捉えると、不思議なことに『多くの人気のあるサイトからリンクされているサイトほど人気がある』という再帰的な仮説がかなりの確度で有効なことがわかってきました。『神の見えざる手』の調整結果を捉えることに成功したわけです。

ところが、一旦Google検索エンジンの価値が世の中に知れ渡ると、ずるをして良い調整結果を得ようとする動きが現れました。それが悪質なSEO検索エンジンスパムです。これらはリアル社会で言えば、誇大広告であったり、会計操作であったり、インサイダー取引に該当します。ルールを決める存在が現れたらそのルールをごまかしたり悪用しようという動きが現れるのは自然なことなのかもしれません。

そして、リアル社会では、ずるをする人達を取り締まる司法があるわけですが、現在のウェブでは、Google等の検索エンジンが立法も行政も司法もひとりでやっている状態だから色々大変なのではないかと思います。

ルールを決めるのが検索エンジン、ルールに基づいて色々な施策を行うのも検索エンジン、ルール違反かどうかを判断して罰を与えるのも検索エンジン、という風に全部やってしまうから問題が起きるのではないかと。せめてルール違反かどうかを判断して罰を与える司法の部分だけでも他の存在が行えば、いわゆるGoogle八分の様な問題も起きないのではないかと思います。

幸いなことにGoogleがフェアな精神と判断力を持っているから上手く回転していますが、仕組みとしてはあまりよろしくなさそうです。私はGoogleや創業者が大好きなので信じていますが、いつか新しい仕組みを考える必要がありそうな気がします。



#追記
上記の様に三権分立はしていませんが、Microsoft、Yahooというライバルがいるので、この3者の競争によってバランスが取れているのかもしれないですね。やっぱり世の中はうまくできています。『神の見えざる手』は偉大ですね。