Googleのラジオ広告のしかけ

Googleのラジオ向け広告プラットフォーム『Audio Ads』について。

懸念点が指摘されていますが、果たしてGoogleにどういう戦略があるのか考えます。

グーグルの「Audio Ads」サービスにラジオ業界幹部は消極的 - CNET Japan


" 次に、ラジオ局に対するGoogleの売り込み--「dMarcのRevenueSuiteを利用すれば、どんな(広告)在庫も有料広告で(しかも自動的に!)埋めることができる」という点について、Bogatinが「これはあまりにうますぎる話で本当とは思えない」とした上で、「このサービスはラジオ局と広告主の双方にメリットをもたらすのか?」と尋ねると、Taddeoは「ラジオ局にとっては、基本的にうまい話ではない。ただし、1ドルで売れるものを二束三文で処分してでも広告在庫を減らしたいというなら話は別だが」と答え、「(Googleのサービスを利用すれば)広告単価のレートが約95%下がる」ほか、「自局の番組が安っぽいコマーシャルでうめられてしまえば、わずかな収入と引き替えに『リスニング環境(the listening environement)』を低下させることになる」ため、ラジオ局側としてはどちらも絶対に認められないとしている。ただし、「場合によっては、それでもいくらか収入があったほうが(まったくないよりも)いいこともある。また、広告主にとっては、ターゲットの絞り込みを気にしない限り、Googleのシステムでも構わないだろう」とTaddeoは言う。"

要するに、Googleのラジオ広告プラットフォームは(Adwordsと同様だとすると)オークション形式による自動入札システムなので、広告主にとってはリーズナブルな反面、広告スペースを提供するメディアにとっては単価が下がってしまう恐れがあるということです。


ラジオに限らずTV、新聞、雑誌等、ネット以外の広告の多くは効果測定の手段を持たないので、『本当は効果がないかもしれないのに広告費を払っている』という無駄が存在する可能性があるわけです。これに対して、ネットの広告はクリック保証型だったり、購入保証型が増えてきているので、より効果が保証されています。


どっちが正しいかといえば効果測定ができてリーズナブルな値段設定の方がもちろん正しいのですが、そうは言っても今までうまく回転してきた既存広告モデルをむざむざ捨てることはなかなかできないでしょう。メディア自ら『実は効果がそんなにないことがわかったので広告料金下げます』とは言えません。ここに既存広告モデルの難しさがあります。GoogleAdwordsの場合は、Google自らがメディアであり、ゼロからのスタートで既存広告市場からシェアを奪っていったので問題ありませんでした。Adsenseの場合は、そもそも広告を掲載したことがない小規模サイトがメディアだったので、これもゼロからのスタートでした。今回はGoogleはメディアではなく単なるプラットフォーム提供者で、メディアは既に既存モデルで収益をあげているわけです。ロスタートではない。ここが難しい。既存メディアは自らの広告売り上げを効率化する(=小さくする)技術の導入を当然渋るでしょう。



ではどうやってGoogleはこの市場を変えていくつもりでしょうか?
ラジオ広告に効果測定の手法を持ち込むのは難しいです。ラジオを聞いた人のうちどれくらいの割合が実際に購入にまで結びついたかの測定はほぼ無理でしょう。部分的にサンプルを調査して確率的に計算するTV視聴率の様な推定しかできません。


実はそこにこそ狙いがあるのではないかと思います。つまり、効果測定ができないということは、ネット広告と比較して広告主にとって魅力がないわけです。どうせ広告を出すなら効果測定できる方がいいに決まっています。となると、長期的に考えた場合、ラジオ広告ビジネスは衰退していき広告単価は自然と下がっていきます。ラジオ広告自体は効果測定できませんが、他の広告が効果測定できることによって、相対的な広告価値が下がり、結局あるべきリーズナブルな数字に落ち着くのではないかと思われます。そこまでいけば、もうラジオ局としては、既存のモデルにしがみついてはいられません。Googleの低コストで自動化された広告プラットフォームを使った方が、営業マンを大量に抱えて広告枠を売り歩くより、メリットが大きくなると思われます。


こんな感じで、この分野にはGoogleは長期的なビジョンで取り組んでいるのではないかと思います。